新型コロナウイルスワクチンとして初めて実用化され、注目を集めている「mRNA医薬品」。
実は、mRNA医薬品がコロナワクチン以外への応用が期待されているのをご存知ですか?
mRNA医薬品分野で2トップを走る企業であるバイオンテック・モデルナの株価について、資産運用の視点で現役薬剤師が解説します。
この記事を読めば、今注目されているmRNA医薬品今後どの分野で期待されているのか、バイオンテック・モデルナの臨床試験がどの程度進んでいるのかが分かります。
資産運用としてはリスク高めですが、今後の成長に期待です!
mRNA医薬品とは
通常、私たちの体内では
- ゲノムDNA(図書館)に全てのタンパク質の情報がコードされている
- ゲノムDNA(図書館)から必要なタンパク質をコードするmRNA(設計図)をコピー
- mRNA(設計図)から必要なタンパク質を合成
が行われています。
mRNA医薬品とは、人工のmRNA(設計図)を薬物として体の外から導入することによって、目的とするタンパク質を体内で人工的に作らせ、不足する機能を補うことを可能にする医薬品です。
新型コロナmRNAワクチンのメカニズム
新型コロナmRNAワクチンのメカニズムは、
- ウイルスのスパイクタンパクのDNA配列を解析
- スパイクタンパクをコードする人工mRNAを合成
- 体内での安定性を向上させるためにリポソーム膜に包む
- mRNAから体内でウイルススパイクタンパク(不活性)が作られる
- スパイクタンパクに対する抗体産生
- ウイルスに対する免疫獲得
となっています。
しかし、mRNAは体内で非常に不安定な物質であり実用化の大きな壁となっていました。
これまでは、mRNAよりも安定性の高いDNAが遺伝子治療として使用されてきましたが、核内に送達させるためゲノムDNAを変異させるリスクがあり、安全性が課題とされていました。
例えば、ゲノムDNAのがん抑制遺伝子を変異させてしまうと、発がんするリスクとなります。
iPS細胞の課題として知られていますね。
今回、mRNA医薬品はドラッグデリバリーシステム(DDS)や修飾核酸などの技術でこの安定性の課題を乗り越え、見事承認されました。
mRNA医薬品のメリット
mRNA医薬品のメリットを解説します。
- 短い時間で容易に設計が可能
- ゲノムDNAに挿入されるリスクがない
- 広い標的に対応可能
mRNA医薬品のメリット①短い時間で容易に設計が可能
作りたいタンパク質の配列さえわかれば、mRNAは機械で精製が可能です。このため、配列が分かった後の製造はとても速いです。
通常、ウイルスは生物の細胞内でしか増殖することができません。このため、ウイルス自体を増やすのに時間とコストがかかります。例えばインフルエンザワクチンは鶏卵でインフルエンザウイルスを増殖させ、精製・不活化してつくられます。
これがコロナワクチンが従来のワクチンよりも早く開発された理由です。
また、ウイルスが変異した場合は変異後の配列に変えるだけなので、変異株出現時の対応も早いのではないかと期待されています。
mRNA医薬品のメリット②ゲノムDNAに挿入されるリスクがない
DNAやRNAなどの核酸医薬品の大きなリスクとして、ゲノムDNAに挿入されることで正常なタンパク質を作らせなくなってしまうことがありました。
例えば、ゲノムDNAのがん抑制遺伝子を変異させてしまうと、発がんするリスクとなります。
一方、mRNA医薬品は核内に移行せずにタンパク質合成を行うため、核内に存在するゲノムDNAに挿入されるリスクはないと考えられています。
mRNA医薬品のメリット③広い標的に対応可能
今回はコロナウイルスのスパイクタンパク質をコードしたmRNAで開発されましたが、”タンパク質を作る”原理は配列さえわれば応用可能です。理論上はワクチン以外の用途にも利用可能と考えられています。
mRNA医薬品のデメリット
mRNA医薬品のデメリットを解説します。
- mRNAは生体内でとても不安定
- 外因性mRNAによる異常な免疫反応
mRNA医薬品のデメリット①mRNAは生体内でとても不安定
通常、mRNAはとても不安定な物質です。生体内で多くのタンパク質合成は必要なときだけ行われるので、mRNAの半減期はとても短いとされています。
mRNA医薬品の大きなハードルも、この不安定性によるものでした。
この不安定性を克服するために、ドラッグデリバリーシステムや核酸修飾技術が進歩したおかげでようやっと製品化されることになりました。
この技術を持った企業が、バイオンテックとモデルナということですね。
コロナワクチンの-80℃保存はこれが理由ですね。
mRNA医薬品のデメリット②外因性mRNAによる異常な免疫反応
生物には、異物を認識する免疫機構があります。人工で作られたmRNAも当然異物として認識され、免疫反応が起こる可能性があります。
コロナワクチン投与後の発熱や筋肉痛は、これが原因と考えられています。
核酸修飾や精製方法の改良で工夫されています。
mRNA医薬品が今後期待される分野(コロナ以外)
上記のメリットから、mRNA医薬品は今後コロナ以外のさまざまな領域に応用されることが期待されています。
- コロナ以外の感染症
- がん領域
- 再生医療
mRNA医薬品が今後期待される①コロナ以外の感染症
今回はコロナウイルスに対してのワクチンで承認されましたが、mRNAワクチンの有効性と安全性が大規模な人数で確認されれば、今後他のウイルス感染症に対しても応用可能と考えられています。よく流行する変異しやすいウイルスで有名なのが、インフルエンザウイルスですね。
安定性と精製技術さえ確立されれば、鶏卵でウイルスを増殖させるよりも効率的に作成きると考えられています。
モデルナは、季節性インフルエンフルエンザ、SARS-CoV-2、RSV、hMPVの混合ワクチンの検討に入ることを発表しています。
mRNA医薬品が今後期待される②がん領域
いくつかのがん細胞は、特定の遺伝子変異により変異タンパク質をもつことが知られています。がん細胞に特徴的なタンパク質をターゲットとするmRNA医薬品を作成できればば、いわゆる”がんワクチン”が登場することになります。
近年、がん治療で主流になりつつある免疫チェックポイント阻害薬と、免疫関連タンパク質をコードさせたmRNA医薬品の併用で相乗効果も期待されています。
mRNA医薬品が今後期待される③再生医療
損傷した組織においてmRNA医薬品で必要なタンパク質の局所生産させることで、再生医療として使用されることが期待されています。
mRNA医薬企業2トップ
mRNA医薬品を開発している企業はいくつかありますが、今回コロナワクチンでいち早く製品化したのはバイオンテックとモデルナです。
バイオンテック
設立:2008年
本社:ドイツ
CEO:Uğur Şahin(ドイツ)
提携:ファイザー(アメリカ)、ビル&メリンダゲイツ財団、上海復星医薬(中国)、テマセクホールディングス(シンガポール)など
疾患治療に対する患者特異的なアプローチのための能動的免疫療法を開発している。個別化されたがん免疫療法、感染症に対するワクチン、希少疾患のタンパク質補充療法に使われるメッセンジャーRNAをベースとした医薬品候補を開発しているほか、癌の治療オプションとしての細胞療法、新規の抗体、低分子免疫調節剤を開発している。台湾はワクチン500万回分を契約するも破棄され、台湾政府はバイオンテックと復星医薬の提携が影響した可能性があることを述べた(Wikipediaより)。
もともとはがん免疫療法で個別化治療を開発する企業。
モデルナ
設立:2010年
本社:アメリカ
CEO:Stéphane Bancel(アメリカ)
メッセンジャーRNA(mRNA)のみに基づく創薬、医薬品開発、ワクチン技術に焦点を当てている。 2010年の設立以来、業界をリードするmRNAテクノロジープラットフォーム、創薬と早期開発を加速するインフラストラクチャ、急速に拡大するパイプライン、および世界クラスの チームの構築に取り組んできました。当社のパイプラインには、いくつかの治療領域にまたがるmRNAベースのワクチンおよび治療法の開発候補が含まれており、他の開発候補が診療所に向かって進んでいる複数の臨床試験が進行中です。さらに、 開発に向けて進んでいる多くの 発見プログラムがあります(モデルナH.P.)。
その他、キュアバック(ドイツ)やグラクソスミスクライン(イギリス)もmRNAワクチンを開発していますが、一歩遅れをとっていますね。
バイオンテックはもともとがん治療、モデルナはワクチンをメインにしていた印象ですね。
バイオンテックの臨床開発状況
バイオンテックのパイプライン
FixVac | 特定のがん種で多く発現する共有抗原を標的とするがん免疫療法。 |
個別化された新抗原特異的免疫療法(iNeST) | 患者ごとに特定された抗原を標的とする個別の癌免疫療法。 |
腫瘍内免疫療法 | がん細胞以外への毒性を回避するために腫瘍に直接注入された免疫調節剤をコードするmRNA。 |
RiboMabs | 抗体を直接コードしたmRNA。 |
RiboCytokines | 組換えサイトカインを直接コードしたmRNA。 |
CART細胞プラットフォーム | 固形腫瘍におけるCART療法の欠点を克服するために設計された第2世代CART療法。 |
チェックポイント免疫調節剤 | 二重免疫調節のための二重特異性抗体。免疫チェックポイント阻害と併用で投与。 |
インフルエンザワクチンなど感染症 | 感染症の病原体を標的とするmRNAベースのワクチン。 |
バイオンテック2021年Q1決算
コメント抜粋
2021年5月6日の時点で、世界中の91の国または地域に4億5000万回以上のBNT162b2が供給されています。
新抗原を標的とするT細胞療法であるBNT221のヒト初の第1相試験が開始されました。バイオンテックの腫瘍学パイプラインの開発は加速を続けており、現在15の進行中の試験で14の製品候補があります。
2021年に腫瘍学パイプラインをさらに前進させ、最大3つの追加プログラムをランダム化された第2相試験に移行する予定です。さらに、3つの前臨床プログラムが2021年の後半にフェーズ1試験に移行する予定です。
モデルナの臨床開発状況
モデルナのパイプライン
コアモダリティ
- 予防ワクチン
- 全身分泌および細胞表面治療
探索的モダリティ
- がんワクチン
- 腫瘍内免疫療法
- 局所再生医療
モデルナ2021年Q1決算発表
コメント抜粋
サイトメガロウイルスワクチンが第Ⅱ相試験でポジティブな結果。2021年度中に第Ⅲ相試験開始予定
季節性インフルエンザ、 SARS-CoV-2, RSV、hMPVの4種混合ワクチンの第Ⅰ相試験を2021年中に開始予定
mRNA医薬品企業(モデルナ・バイオンテック)の株価
ワクチンが承認されてからの上昇はすごいですね。
バイオンテックの方がモデルナよりも上昇しています。
ワクチンがひと段落して下がるタイミング来るかもしれません。 がん治療に力を入れるバイオンテックか、ワクチンに特化したモデルナか、見守っていきたいと思います。
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